ご存知の方もいるように、ハンセン病は、歴史上もっとも古くから記録されている病のひとつです。アレクサンダー大王の時代から確認され、中国では『論語』のなかにも一節が見られます。
この本に登場する人々の物語、そしてこの病の長い歴史を伝えるために、私はこの作品を「中国の古文書」のような佇まいにしたいと考えました。そのため、古文書について調査を行い、台湾の古書店をいくつか訪れ、実際の中国古文書に触れる機会を得ました。
この巻物を広げていくと、少しずつ写真が現れてきます。私自身がどのように少しずつこの物語へと分け入り、人々に出会っていったかを重ねました。見てくださる方にも、彼らとの出会いや、彼らが暮らす風景に辿り着くまでの旅路を追体験していただけたらと思います。
紙
このオブジェクトに中国古文書のような雰囲気をもたらすためには、適切な素材選びが欠かせませんでした。私は、繊維の質感が美しく、古い文書のような佇まいを再現できる高品質な伝統和紙「楮紙(こうぞし)」を採用しました。
表紙
表紙には、蔦の刺繍があしらわれた伝統的な日本の布地を使用しています。この蔦は、写真に写る人々が暮らす環境を象徴しています。また、表紙の裏には、徳川将軍家の重要文書にも使われた茨城県産の「西ノ内純和紙」を裏打ちとして貼り合わせ、耐久性を高めています。
制作
すべての工程は、伝統的な技術に則り、手作業で丁寧に行われています。
題字:市野美里氏
タイトル書は書道家・市野美里氏によるものです。巻物ごとにすべて異なる書が直接筆で描かれています。制作工程がすべて終わったあと、一点一点、集中力と注意を込めて、書き上げてもらいました。ゆえに、すべての巻物は世界にひとつだけの表情を持っています。
軸
巻物において軸は重要な要素のひとつです。本作品には、奈良県(京都に隣接)産の「吉野杉」を用いました。吉野杉は質が高く、最良の素材のひとつとして知られています。山で伐採された後、6ヶ月以上自然乾燥させ、さらに工房で時間をかけて強度を高めてから加工されます。長期保存にも適した素材です。
箱
収納箱は桐製で、創業145年を誇る桐箱専門の「箱義桐箱店」によって、すべて手作業で制作されています。桐は、8世紀の日本から貴重な資料を保管するために使われてきた素材で、湿気や温度変化に強く、繊細なオブジェを守るのに最適です。本作のために、特別なサイズに合わせて誂えられた一点ものです。
消逝的世界 -特装版-
JPY ¥0
在庫切れ
限定版10部
題字:市野美里
サイズ:27.5cm × 10m(巻物)/10.5 × 9 × 35cm(箱)
言語:英語・日本語
発行:2013年11月
制作:アーティストによるハンドメイド