日本、2014年~2018年
この旅する貸写真集のプロジェクトには、3年間で様々な国から300人以上が参加してくれました。本は旅を終え、それぞれの写真集を、私が撮影をした彼女たちに手渡すことができました。
本プロジェクトに参加した人々の寄稿の一部。
ドキュメンタリー写真やフォトジャーナリズムと言われる分野の写真は、往々にして「じゃぁ被写体に何かいいことあったの?」という疑問がついて回ります。また、人の不幸で飯を食っているという議論も昔からあります。
「撮られた写真を見ることで、自分自身を見つめなおしたい」
撮影を始めた当初は、いつものように写真を広めることを頭の中に思い描いていましたが、彼女たちの言葉は、このプロジェクトにもう一つの目的を与えてくれました。被写体となってくれた人たちに直接何かできるプロジェクトになる可能性ががあるのではないか。撮影を進めていくと、彼女たちが子どもの時、または大人になってから遭ったトラウマが、彼女たちの自尊心を大きく傷つけたことを知るようになりました。誰しも自分のことはかわいいものですが、 彼女たちは自分自身を受け入れられずに苦しんでいました。傷ついた自尊心を取り戻すのは簡単なことではありません。でも、もし誰か他の人が、「彼女たちの存在を認識している」と、「彼女たちが知る」ことができたら。彼女たちが自尊心を回復させる過程で何か意味のあるものを作れないだろうか。そんな気持ちからこの本を作るに至りました。撮影させてもらった女の子たちの中には、すでに自傷行為から抜け出し、元気に生活している人もいますが、抜け出すにはもう少し時間のかかりそうな人もいます。もしかしたら、少し上から目線に聞こえるかもしれませんが、彼女たちに
「あなたは大切な存在ですよ」
と感じてもらうことができたら、と考えました。
この写真集は 6 冊あります。撮影させてもらった彼女たちの人数分です。本の後半は白紙です。この本を借りてくださった方に、短くても構いませんので、何か書いてくださいとお願いをしました。。写真の感想でも、彼女たちへのメッセージでも、どんなことでも構いませんでした。本を借りてくれた人の中には、文章を書いてくれた人もいれば、絵を描いてくれたか人もいます。写真を貼り付けたり、刺繍をしてくれたり、それぞれの方がそれぞれの方法でメッセージを残してくれ、最終的には人々の良心がつまった美しい本になりました。
当初は、この本を半年〜1年ほど貸し出し、後半の白紙が埋まったところで彼女たちに渡そうと考えていました。ただ、予想に反して多くの方が興味をもってくれ、この本が世界中を旅し始めてから3年以上かかって、ようやく彼女たちの手元に届けることができました。
この写真集は多くの国を旅してきました。本は人の手に触れられることで、それなりに跡が付きます。もちろん丁寧に取り扱って頂いていましたが、人の手に触れたことがわかるということは、本を借りてくれた人たちが、彼女たちの写真を見て、彼女たちや本の存在を認識してくれたということなのではないかと考えます。彼女たちが最後に本を受け取った時に、多くの人が彼女たちの姿を認識したということがわかることが重要だと考え、あえて本の表紙は薄く、手の跡が残りやすい色にしました。
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世界中を旅した6冊の本のうちの1冊。