VANISHING EXISTENCE

2007・中国

私と写真家の岡原功祐はある病気の終焉を見届ける旅に出た。川の向こうにあるハンセン病村には、11名のハンセン病回復者が暮らしていた。この村に外国人が来るのは初めてだという。村を後にするとき、珍しい来訪者を村人たちは見送ってくれた。不安定に揺れる小さな手漕ぎ舟から村を振り返ると、老朽化した家屋がまばらに見えた。そしてそこには間違いなく、人が暮らしていた。社会から排除された彼らの態度は、その過酷な差別に関わらず、珍客に対しても開放的なものだった。彼らと社会を隔てたものは、たかだか数十メートルの川ではなく、もっと違ったものだったのだろう。彼らが数十年たっても越えられない川を、数分で越えてしまうことに複雑な感情を抱きながら、ひとつの病いの終焉を見つめる旅が終わろうとしていた。(文:西尾雄志・近畿大学教授)

| 関連アートブック 消逝的世界/ 特装版 /大型版

消逝的世界 – 特装版』は、ミュンヘンのバイエルン州立図書館のアートブックコレクションの一部として収蔵されています。

“題字・市野美怜” 消逝的世界には、この病気の歴史(背景)を表現するために、3つの異なる形のアートブックがあります。 一冊は和綴じ本、もう一冊は10mの巻物、そして最後の一冊は100x70cmの巨大な和綴じ本です。