書評
朝日新聞


「私には居場所がない」

きっかけは大学の後輩のこの一言でした。

このプロジェクトを始めたのは2004年。8年ほどかけて、6人の自傷行為に苦しんでいる10~20代の女性の生活を撮影させてもらいました。(書籍には5人の写真とストーリーを記しています。)

自傷行為の裏には、いじめ、貧困、家庭内暴力、レイプといったものが存在していました。それらは聞いたことはあっても、実際に近くに感じたことのないものでした。日本に存在する「恥の文化」が良い意味でも悪い意味でも、それらが表に出ることを防いできました。東京から1時間のところに貧困は存在し、借金取りが毎日やってくる生活がありました。レイプは僕が卒業したばかりだった大学内でも起きていました。

自尊心を傷つけられることで、自らの価値を認識できず自分は役に立たない存在と思いこんでしまう。「価値がない(と思い込んでいる)自分」を傷つけることで、自らの存在を肯定しようとする。しかし、その傷を見ては「してはいけないことをしてしまった」と自己嫌悪に陥る悪循環。そんな彼女たちの生活は簡単ではありません。

彼女らは自らの行為を正当化しようとは思っていません。ただ彼女たちの存在は、日本が抱えている社会の一端を示しています。

やがてIbasyoプロジェクトは、写真に登場する彼女たちに何かをしたいという想いから、「旅する貸本」のプロジェクトへと発展していきました。

6冊の手製本を作り、それぞれ1冊ずつ彼女たちのために用意しました。本の後半には白紙のページを設けてあります。2014年から現在まで、この本は世界中を旅してきました。これまでに300人以上がこのプロジェクトに参加し、メッセージを書き、絵を描き、写真を貼り付けてくれました。その結果は、私の想像をはるかに超えるほど美しく、多様な国や文化の人々からの心からのメッセージであふれています。

この本に収められているのは、彼女たちの写真と物語、そして「旅する本」に書き込まれたたくさんのメッセージの一部です。彼女たちのストーリーと、多くの方から寄せられた思いやりの言葉が、自傷に苦しむ人々、そしてその家族や友人にとって、希望のひとつになればと願っています。

岡原功祐

Ibasyo

JPY ¥3,080

在庫あり

発行:2018年3月
印刷:日本
サイズ:18.5 x 12 cm
頁数:380ページ(写真88ページ+本文272ページ)
言語:日本語(+ 英語解説)
発行:工作舎

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