コロンビア・メデジンで2008年から始まった、新しい麻薬戦争の中で生きるギャングやその家族のストーリー(2010年に撮影したストーリーの続き=2011年9〜10月撮影)を、週刊朝日に寄稿しています。



コロンビア・メデジンで2008年から始まった、新しい麻薬戦争の中で生きるギャングやその家族のストーリー(2010年に撮影したストーリーの続き=2011年9〜10月撮影)を、週刊朝日に寄稿しています。



まだ先になりますが、毎年9月にフランス南部のペルピニョンで開催されているフォトジャーナリズム・フェスティバル、Visa Pour l’Image にて、コロンビア・メデジン市の麻薬戦争の中に生きるギャングとその家族の生活を追ったストーリー
「Any given day 〜living for the moment in Medellin’s new drug war〜」
が、プロジェクション上映されます。
今のところ、9月3日(金)の上映予定です。
プロジェクション上映予定はこちら→ http://www.visapourlimage.com/festival/screenings.do
5月19日発売のニューズウィーク日本版にも載っていたのですが、Russian Reporterでもつい先日出たので画像をはりつけます。
内容はコロンビア、メデジン市のスラムに住むギャングやその周りの人たちの日常を追ったものです。



ウェブにも載せたので、お時間ある方はご覧になってください。
http://www.kosukeokahara.com/stories/anygivenday-e/index.html
女のアパートを出ると、さらにバリオの上の方に向かって坂を登った。20度以上はあるだろう、急勾配の坂が続く。歩いていると、上からおりてきた車がすぐ横で止まった。
「マルロン何してるんだ。今からダウンタウンに行くんだ。お前もこないか?」
車を運転していたのはディエゴという、この地域のギャングの一人だ。
「そうだな。じゃぁ行くか。土曜の夜だしな」
そう言うマルロンと一緒にディエゴの車に乗り込む。ディエゴは25歳、話し方からするとコカインを多少やりすぎているように思えた。運転席には9ミリのリボルバーが見える。バリオを下る前に自宅に寄るといい、通り3つほど挟んだディエゴの家に向かった。
ディエゴの家に着くと、50歳くらいの女性が怒鳴りちらしながらこちらに向かって来るのが見えた。
「あんたまた何してるんだい!いつもくだらないことばかりして!」
女性は車の窓から手を突っ込んで車のキーを抜いてしまった。さらにディエゴを車から引きずりだす。
「やめてくれよ。ほら、中国人の友達もいるんだ」
「だから何だって言うんだい!」
女性はディエゴの母親で、仕事を探さず、ギャングに加わっているディエゴに対して怒りをあらわにしていた。
「こりゃだめだ、行こう」
マルロンが僕の腕をひく。ギャングとは言え、母親にかんしゃくを起こされてはどうしようもないらしい。ディエゴはそのまま母親に引きずられて家の中へと入って行った。
「あいつは何人も殺してるんだ。子供を恐れて何も言えない親は多いけど、ああいう親も中にはいるんだよ。あいつの兄は軍隊で働いているから、余計にディエゴのことを恥だと思ってしまうんだろうな。珍しいよ、ああやって言う母親は。うちの母親なんて生まれた時から俺のこと捨ててたくらいだからな」
そう言うマルロンは、今まで何人殺したのかと聞くと
「俺か?俺はそんなでもないよ。3人だけだよ」
表情一つ変えずに、彼はさらっと答えた。
手を振っていた女は自分でも
「あたし、タイ人みたいな顔してるでしょ?」
というほどタイ人のような顔をしていた。
マリアと名乗るその女の後についていく。アパートに入るとマリファナの強烈な匂いが鼻をついた。見た目はどこにでもいそうな若い女だが、この辺りのマリファナの元締めをしているという。アパートの中には3部屋ほどあり、中で何をしているのかは分からないが、どうやら大量のマリファナが保管してあるようだった。こっちの考えていることを察したのか、マリアは言った。
「今はないわよ。全部で払っちゃったから。その辺の通りで売ってる男たちがいるでしょ。あの子たちが私の下で働いているの」
そう言うと、小さなビニール袋から葉を取り出し、器用に紙で巻いていく。巻きたてのマリファナをふかしていると、部屋から子供が飛び出して来た。マリアの息子だという。シングルマザーのマリアは、女手一つで息子を育てていた。すると、他の部屋から今度は赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。マリアが部屋に入り赤ん坊をあやしだす。
「この子はあたしの子じゃないのよ。あと2人ここに住んでてね。仕事仲間よ」
マリファナを売り始めたのは数年前からだという。他に良い稼ぎの仕事もないので、自然とこの商売に脚を踏み入れた。大した稼ぎになるわけでもないが、道やバスの中でキャンディーを売るよりはよっぽどいい。子供を学校に行かせるためにも金は必要だという。
「ねぇ、あんた、日本に連れて行ってよ。あたしの顔タイ人みたいだし何とかなると思うのよ。それにいい稼ぎの仕事もあるんでしょ?そしたらこっちに仕送りもできるし、ねぇ、何とかならないの?」
マリアはどこのバリオでも聞いたような台詞をはいた。
外国人と結婚して国を出ていくコロンビア人もまた多い。特に貧しい地域に生まれ育った人たちにとっては、貧困から抜け出すための夢のチケットと言っても過言ではないかもしれない。
「あんたの友達でもいいからさ、誰かあたしに紹介してくれない?」
マリアは何度も繰り返す。笑っているが、冗談なのか本気なのかこちらも態度に困ってしまう。
「はぁ、もういいわよ」
そう言うと、また気だるそうに煙をくゆらせた。
3日後、ジョバンニと約束した時間に合わせ、バリオ・トリステに向かった。
2時間ほど待っていると、ジョバンニが奥の部屋から出て来て言った。
「来たぞ。あとは自分で話してくれ」
ドアの方に目をやると、若い男がこちらを見ていた。
「お前か、で、何をしたいんだ?ジョバンニに頼まれたから案内くらいならするけど」
その男は28歳でマルロンと言い、今は比較的落ち着いているバリオに住んでいるという。
「とりあえず今日はうちに泊まっていけばいいよ」
そう言うマルロンと一緒に彼の家に向かう。日も落ちかけた午後5時半、雨が降り始め、10分もするとどしゃぶりになった。
マルロンの家はロブレドというメデジンの西側の斜面に位置するバリオにある。右派民兵もギャングもいるが、他のバリオと違い、それらが一つのグループにまとまっているので殺しも起きにくい。
大雨の中マルロンの家に着くと、彼の祖母が出迎えてくれた。
「あんた中国人かい?雨すごかったろう。ほらこれで拭きなさい」
マルロンは28歳で息子が一人いるが、別れた恋人が面倒をみていた。コロンビアでよくありがちなパターンだ。何故一緒に住まないのかと聞くと、黙ってしまった。息子には定期的に会いに行ってはいるが、別れた恋人からは煙たがられているという。
日が落ちても、バリオには大音量で音楽が流れにぎやかだ。道では若者たちがバイクを乗り回している。
「みんなここのギャングだよ。パトロールしているんだ。ここのバリオは安全とは言え、いつ外から誰か入ってくるか分からないからな」
マルロンとバリオを歩いていると、若い女がこちらに向かって手を振っているのが見えた。
「ちょうどいい。あの女のところに行こう。あの女は若いけど、結構な大物なんだ」
僕の取材は基本的にすごく個人レベルのドキュメンタリーで、どうしても政治的に大きな話題やニュースなどとは離れています。なのでここでは様々なコロンビアの情報(政治的なニュースからスポーツ、観光情報まで)を得られるウェブサイトを紹介したいと思います。
Colombia Reports / http://www.colombiareports.com
Colombia Reports は、数年前に始まったウェブサイトで、メデジンをベースにコロンビアに関する様々なニュースを提供しています。英語になりますが、コロンビアに興味のある方は、是非ご覧になってください。
待ち合わせ場所のガソリンスタンドが見えてきたので、タクシーの運転手に車を停めるように言うと、
「ここで降りるのかい?この辺りはすごく危険なんだ。歩いちゃいけないよ」
と制された。
「一応この辺は知り合いがいるから…」
そう言い、タクシーを降りる。
バリオ・トリステ。メデジンの中心部から5分ほどのこの地区は、車の修理工場が集まっている地域で、治安の悪い一帯としても知られている。黒く汚れた作業服姿の修理工たちに混じり、明らかに路上強盗をしてそうな輩も目につく。先の曲がり角に目を向けると、クラック中毒の男女たちが煙をくゆらせながら路上でポーカーに興じている。バーの軒先でビールを飲んでいる黒人の男は明らかに右派民兵だ。待ち合わせ場所に目当ての男がいないので周りを見回していると、
「ハポネス!(日本人)」
と声が聞こえた。肘より先がない男がこっちに向かって腕を振っている。モチョだ。
モチョはバリオ・トリステの工場で働いている49歳のセニョールで、以前来た時によく彼のオフィスで時間をつぶしていた。モチョにジョバンニを探していることを伝えると、オフィスまで連れて行ってくれるという。
「キュースコ!」
僕の名前(コースケ)を何年経っても正しく発音してくれないジョバンニは、小さな頃から内戦のまっただ中で育って来た、この辺りでは一目置かれた存在だ。毎回取材の際にはジョバンニの元を訪れ、情報をもらっていた。今回の取材のことを話すと、すぐに誰かの顔が浮かんだのか、一人紹介してもらえることになった。
「3日後にここだ。俺の知り合いだから大丈夫だ。信用していい」
携帯電話を置くと、ジョバンニは新しい仕事を見せたいと言いだした。奥の部屋に入ると、20人以上の…見るからに路上強盗をしてそうな男から、売春婦のような格好をした女、麻薬中毒者のような顔色の女の子……たちが、楽しそうに盛り上がっている。
一体何をしているのか聞くと、これから映画を撮り始めるのだという。ジョバンニは2年前からジャーナリズム学校に通い始め、映画撮影の準備を進めていた。
「映画はバリオトリステを舞台にしたものなんだ。強盗が主役だ」
「でも彼ら役者じゃなくて本物みたいだけど?」
「そうだよ。みんな本物だ。リアリティがあるだろ」
すると、隣にいたレイディという売春婦が台本の一部を指差して言った。
「ほらここ、あんたも出るのよ。書いてあるでしょ、中国人が強盗に遭うって」
どうにも苦笑するしかないこちらを見て、本物のキャストたちとジョバンニはゲラゲラと笑う。
「キュースコ、じゃぁ3日後な」
打ち合わせを続けるからと、ジョバンニは部屋の奥へ戻って行った。